【目指せ!プロシンガー】 影技その3「腹式呼吸は『お腹があと!』」

Oct 03, 2016

※こちらの記事は2016年10月3日に公開したものを転記したものです。

関東近郊でボイストレーニングのレッスンを手がけている、ダイアモンドボイスミュージックスクールのボーカルトレーナー尾飛良幸さんに記事を書いていただきました。

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こんにちは。ボーカルトレーナーの尾飛良幸(おびよしゆき)です。

▶︎尾飛良幸さんnanaアカウント

《尾飛良幸 プロフィール》
フリーのマルチシンガーソングライター。シンガーソングライターとボーカリストのトレーナーとして、2000人以上の指導歴。またボーカルトレーナーの育成も精力的に行い、これまでに数十名のトレーナーを育てる。
これまでにZepp Tokyoをはじめ、約250本のライブイベントを開催。また他にも作詞、作曲、編曲家として映画、演劇、アイドル、 アニメ、ゲーム等、多方面に楽曲提供。その作風は変幻自在。レッスンでは、アーティストのレコーディングや音源制作等もおこなう。
また自分自身もシンガーとして定期的にライブを行う。その凛とした透明感と他の追従を許さない迫力ある歌声は「Diamond Voice」と言われている。

私が25年間で3,000人以上のボーカルレッスンで築き上げてた「歌が上手になる技」を、シリーズで紹介していきますね。

歌の基本!「腹式呼吸」

腹式呼吸を歌の中で使えるようにマスターすると、喉や体の力が抜け、声が身体中に響くようになり、声量が増えて声が見違えるように良くなります。今回はこの「腹式呼吸」について、お話ししましょう。

さて、早速恒例のクイズです。

Q:腹式呼吸をすると、空気は体のどこに入るでしょうか?
1:背中
2:お腹
3:肺

さて、正解はどれだと思いますか?

正解は・・・

3:肺!!

息を吸ったら空気は肺に入るなんて、小学生でも知ってるよ!って思った方、実は私がこれまで色々なところで、歌のセミナーやレッスンをしてこの質問をすると、驚くことに大人でも、なんと3人に1人は、「お腹」って答えちゃうんです。

お腹に空気が入ったら、それは「おなら」です(笑)

ではそのひとたちは、どうして「お腹」って答えたか。その理由は「腹式呼吸では『お腹に空気を入れて~』と言われたことがあるから」です。

歌の先生や指導者って、このセリフよく使うんです。

「お腹に空気を入れて!」
「お腹から声を出して!」
「お腹でしっかり踏ん張って!」
「お腹に力を込めて!」

などなど。

これって、実はちょっと曖昧な説明ですね。どうすればそれができるか、と言う説明がないので、人によって、意味の理解の仕方が変わってしまいます。

ちなみに、ちょっと話がそれますが、ボーカルトレーナーによくある、曖昧な説明の仕方の例をいくつか挙げると、

・声を出すときにお腹に力を入れなさい
・お腹を前に押し出して踏ん張りなさい
・お腹をぎゅっとへこまして声を出しなさい

などなど。

これらも、実はちょっと説明が足りないのです。だから、間違ったとらえ方をしちゃうと、とても良くない。

なぜかというと、「体に力が入る動き」になってしまうことが非常に多いからから。

じゃあ、どうしたらいいのか?それをちょっと説明しますね。

歌の練習では、3つ勉強することがあります。
1:技術力
2:表現力
3:心の統制力

腹式呼吸は、この「1:技術力」になります。では「技術力」って、極めたら最終的にどうなると思いますか?

どのような状態になったら技術力が「完成」したことになるんでしょうか?

答えは、

『自分では、声を出すのが、超らくちん。力を全然使わない。でも周りで聞いてる人が「どうしてそんなすごい声が出るの!?」とびっくりする声が出ている』

これが「技術力」の最終完成形です。

だから、「体に力が入る動き」というのは、その「完成形」からみると、全く反対のことなので、間違ったことになるんですね。

そうなると、「お腹に空気が入らない」&「お腹に力も入れない」っていう腹式呼吸って、いったいどういう感じなのでしょうか・・・。

さっそく実践してみよう!

それでは、実際にその腹式呼吸で声を出してみましょう!

腹式呼吸で歌った時と、胸式呼吸で歌った時の違いをアップしましたので、まずは聞いてみてください。

呼吸以外は何も変えずに歌っていますが、かなり聞いた印象が違うと思います。

ではこれ、呼吸をどのように変えたかというと「空気を入れる場所」を変えたんです。肺って、かなり大きくて、4リットルくらいありますよ。1リットルのペットボトル4本って、かなり大きくないですか?

画像1

この上側に空気が入る呼吸を「胸式呼吸」、そして下側に入る呼吸のことを「腹式呼吸」っていうんですね。

これを練習すると、ちゃんと自分の意思で「今、上側に空気入れた」とか「肺の下側に空気を入れてみよう」とか、区別できるんですよ^^

簡単な腹式呼吸の説明になりますが、この「肺の下側に空気を入れた」時に、横隔膜(肺と内臓を分ける筋肉の膜)が下に押し下げられて、その下がってきた横隔膜によって内臓が押し広げられ、結果「お腹が膨れる」事になるのが腹式呼吸です。

文章での説明が難しいので、詳しく知りたい方は、私が実際グループレッスンで教えている、下記リンクの動画をご参照くださいね。(動画の40分くらいから腹式呼吸の説明が始まります)

さて、腹式呼吸の練習で、絶対に違えてはいけないのが、「お腹は『腹筋』の力で押し出すものではない」ということ。

実際、試しに息を止めた状態で、自分で腹筋を使って、お腹を凹ましたり出っぱらせたりしてみてください。

結構、動きませんか?

これが、呼吸に関係なく、腹筋の力でお腹を動かしている動きですね。

悪い腹式呼吸とは、この「腹筋を自分の力で、凹ましたり出っぱらせたりしている動き」に合わせて、息を吸ったり吐いたりして、腹式呼吸をやってる気になっていることなんです。

こういう人の特徴は、「息を吸うより先に、お腹が膨らみ始まる」ということ。

同じように吐く時も、「息が口から出るよりも前に、お腹が凹む」ことが、ほとんどですね。

正しくは
・息を吸ってから横隔膜が下がってお腹が膨らむ。
・息を吐いてから横隔膜が上がってお腹がへこむ。
です。

どうも腹式呼吸がうまくいかないと言う人、あるいは良く分からないと言う人は、実はこの「お腹を自分の力で動かしてしまう」ということが原因で、上手にできなくなっていること多いですね。

やっぱり、腹式呼吸と聞くと、お腹がすごく動いてる方が「俺、腹式呼吸できてるぜ」感ありますからね(笑)

でも、動けば良いってものじゃないですよ!

つまり今日のポイントは!

【腹式呼吸は、空気が先で、お腹はあと!】

では、より良く腹式呼吸が、できるようになる技をやってみましょう。

まず何より大事なことは、「姿勢」ですね。

姿勢を正しくすると、声を出すのに必要な「体幹」の筋肉(ハムストリング、大腰筋、最長筋、肋間筋など)をしっかり使えるようになって、声がとても楽に出せるようになります。

逆に
・膝が伸び切ってる人
・お尻が後ろに突き出てしまう人
・肋骨(胸)が下がる人
・背中が反りすぎてしまう人
・首が前に出る人
・顔が上に上がる人
これらの方は、腹式呼吸が出来なくなる原因を自分で作ってしまっています。

まずはきちんと「歌での正しい姿勢」を普段から心がけましょうね。

先ほどの動画でも姿勢の説明をしていますから、より詳しく理解したい方は、のぞいてみてくださいね。(11分30秒くらいから始まります)

また、このコラムの第1回目で、姿勢の良い例と悪い例の写真をアップしてありますので、お時間ありましたら、ご覧くださいね。

【目指せ!プロシンガー】 影技その1「高音は距離で出そう」

そしてもう一つ、よく勘違いされることをお話ししますね。

それは、「肺にある全ての息を吐き切らないと、次の呼吸で腹式呼吸にならない」と言うもの。

これもよく歌の先生が言う言葉ですね。「息継ぎで息を吐ききってえ~!」って。

呼吸量を増やす練習としては、とても良いんですが、腹式呼吸の説明となると、言葉がちょっと足りません。先ほど書いたように、腹式呼吸は「肺の下側の空気を使って呼吸すること」ですね。

だから実は、腹式呼吸で息を吐き切っても、肺の上側には、まだ空気が半分残るんですよ。腹式呼吸の理解の仕方を、順番に整理すると、

・まずは、肺全体にしっかり空気を入れる。(全肺呼吸って言いますね)
・次に肺に上の空気は残したまま、胸が下がらないように気をつけながら、お腹が凹むように息を吐く。(この時、肺に入ってる息を全部吐かないようにね)
・お腹がペタンコになったら、そこから胸を下げずに、息を吸ったり吐いたりしてみましょう。

そうすると、胸が上下に動くことがなく、お腹だけが膨らんだり凹んだりしませんか?大きく呼吸しても、胸が上下に動かず、お腹だけが前後に動いていれば、腹式呼吸成功です^_^

そう考えると、先ほどのレッスンでよくある説明は、

・肺にある全ての息を吐き切らないと、、、、

ではなく、正しくは

・肺の下側にある全ての息を吐き切らないと、次の呼吸で腹式呼吸にならない。ですね^_^

さてさて、これまでの説明で、「腹筋を使いましょう」って言ってないのに気づきました?そう実は、腹式呼吸では腹筋を使わないんです!腹筋は、姿勢を良くするために、使うんです。

じゃあ、腹式呼吸ではどこの筋肉を使うか。それはズバリ

「横隔膜を下げる筋肉」

これは、横隔膜自身の筋肉はもちろん、その周りにある「横隔膜補助筋」など、その全体の筋肉です。

画像2

この筋肉を鍛え、横隔膜を下げ続けておく力をつけるんです。これを「支え」と言います。

「横隔膜を下げ続けておく力」=「支え」

これを鍛えると、本当に呼吸しっかりして、声が変わりますよー。

鍛え方は、また今度^_^

毎日少しずつ練習しよう!

それでは、毎日の生活できる「腹式呼吸の練習方法」を、いくつかお話ししますね。

1:普段の生活を「良い姿勢」で過ごす。
→これは重要ですねえ。特に胸が下がらないようにする事、首が前に出ないようにする事の2点は注意しましょうね。

2:プロの歌を聴きながら、息継ぎを同じタイミングでする。
→既存の歌を聴いている時、歌手が歌っている部分は、その歌に合わせて、口から息を「スー」で吐きます。

歌手が息継ぎをしたら、一緒に息を吸います。この時に姿勢が崩れてないか、腹筋に力が入ってないか、などを注意深くチェックしてみましょう。

3:寝っ転がって、お腹に手を当てて、呼吸とお腹の動きを確認する。
→人は寝ている時に腹式呼吸になっています。なので、横になって練習すると、腹式呼吸の理解が早くなりますよ。

確認のポイントは、ちゃんと「息を吸ってから、お腹が膨らみだしているか」「息を吐き始めた後から、お腹が凹み出しているか」と言う事。自分で腹筋を使ってお腹を動かしちゃダメですよ~^_^

今日のおさらい

はい!それでは今日のおさらいです!

1:姿勢はいつも正しく
2:自分で腹筋を使ってお腹を動かさない
3:息を吐く時に、胸が下がる吐き方をしない
4:息が先で、お腹は後から動くようにする

ぜひ試してみてくださいね^^

尾飛良幸の発声法が学べるボーカル教室「DVMS」では、いつでも無料体験ボーカルレッスンが受けられます。

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ダイアモンドボイスミュージックスクール:

【ダイアモンドボイスメソッドとは】

欧米を中心とした海外トップシンガーの多くが使っている、地声を育てる歌唱法を「ベルティングボイス」といいます。 しかしその歌唱法は、アジア人にとって 骨格、体格、筋肉のつきかた、言葉の発音、あごの骨の発達の仕方、さらには自分の想いの表現方法まで、欧米の方と違いがあり、理解し習得するには非常に困難です。 そこで、アジア人が「ベルティングボイス」を習得できるようにと、尾飛良幸が独自に発展させた、アジア人の為のボーカルメソッドです。このメソッドにより、レッスンの1回めから格段に声が変化すると同時に、表現力、発音、脱力、声量、音域と、歌に関する全ての分野が劇的に改善向上していく事が可能になりました。

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